物理測地学


訳者あとがき から 
 地球の形と大きさを求める学問として「測地学」という言葉に出会ったのは、国土地理院に入った時である。入った当初は、もっぱら測位に重点を置いた幾何学的な測地学を理解することで手一杯であった。 数年後米国オハイオ州立大学大学院測地学教室に留学する機会があり、その時はじめて体系的な測地学に出会った。1970年代後半のオハイオ州立大学(OSU)にはMueller,Uotila,Rappといった衛星測地、物理測地で活躍していた教授がおり、測地学のセンターでもあった。 物理測地学の講義はRappが行っており、テキストとして使われていたのが Heiskanen & Moritz の「物理測地学」であった。当時Rappは地球重力場の球関数モデルの改良に熱心で、その後アルチメトリーのデータをもとに次々と球関数モデルをOSUモデルとして精力的に発表していた。 訳者にとっての物理測地学との出会いはこの時で、帰国してからはもっぱらGPSを中心とした幾何学的な測地学に携わってきた。 ふたたび「物理測地学」に出会ったのは昨年である。 訳者は昨年Hofmann-Wellenhofの「GPS-理論と応用」を翻訳出版したが、出版直後Hofmann-WellenhofがあのMoritzと一緒に「物理測地学」を40年ぶりに改訂したという知らせを聞いた。 早速手に入れ読んでみて30年前の自分が甦るような気になったのである。 同時にこの本にはGPSの登場により大きく変わった測地学の世界が書き込まれており、これから測地学をめざす人にとって非常に重要な本になると確信した。 その意味で今回編集部の尽力で翻訳出版できることになり感謝している。 
この30年、測地学の世界での最も大きな変化は人工衛星による観測研究の進展であろう。 一方で、GPSの登場により、それまでの測地学では到底かなわなかったセンチレベルのグローバルな位置決定が可能になり、 地球の形と大きさを求めるという測地学の目的のかなりの部分が達成可能な状況になった。 他方最近ではCHAMPやGRACEといった衛星の打ち上げにより、時間的な変動も含んだより詳細な地球重力場も明らかになりつつある。 従来の幾何測地、物理測地という枠組みを超えて測地学が変わりつつあるということであろう。 本書はこの間の測地学の変化を取り込んで書かれている。 特に第5章のGPSについての記述や、第8章のモロデンスキー理論の説明は旧版にはなかったものである。 旧版は地球科学の分野で世界的なベストセラーであり、日本でも多くの人が原書で手にした名著である。 新版の本訳書でひとりでも多くの人が測地学の世界に興味を持って頂けたら、訳者の望外の喜びである。


発行:丸善出版
ISBN:978-4-621-06307-1

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